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名古屋地方裁判所 昭和49年(行ウ)2号 判決 1975年3月21日

原告

浅野郁郎

被告

名古屋市人事委員会

右代表者

加藤道男

右訴訟代理人

富島照男

外二名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

「一、被告が、昭和四八年人委(措)第二号事案につき、昭和四八年一〇月二四日付でなした、要求者の要求はいずれもこれを認めることができない旨の判定を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文同旨の判決および本案につき、「一、原告の請求を棄却する。二、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、原告は名古屋市立円上中学校教諭であるが、昭和四八年七月一七日、労働安全衛生法(以下、労安法という)二三条、二七条および事務所衛生基準規則(昭和四七年九月三〇日労働省令四三号、以下事務所規則という)に基づき、下記(イ)ないし(ヘ)の施設・設備の設置・改善を求め、被告に対し地方公務員法(以下、地公法という)四六条により勤務条件に関する措置の要求をなした。(イ)教職員用男女別便所(事務所規則一七条一項)(ロ)休憩の設備(同一九条)(ハ)休養室(同二一条)(ニ)更衣室(同一八条二項)(ホ)冷房の設備(同四、五条)(ヘ)職員室の床面積の拡大(同二条)

二、被告は、右措置要求に対し、昭和四八年一〇月二四日付「要求者の要求はいずれもこれを認めることができない」との判定(以下、本件判定という)をなした。<後略>

理由

一原告が名古屋市立円上中学校の教諭であり、昭和四八年七月一七日被告に対し、勤務条件に関する措置として、その主張のような施設・設備を設置または改善する措置がとられるべきことについて措置要求をなしたところ、被告が同年一〇月二四日付右要求を認めることができない旨の判定をなしたことは、当事者間に争いがない。

二さて、措置要求に関する地方公務員法四六条は、実体法上具体的な措置の請求権を認める趣旨ではないが、同法が職員に対し労働組合法の適用を排除し、団体協約を締結する権利を認めず、また争議行為をなすことを禁止し、労働委員会に対する救済申事の途をとざしたことに対応し、職員の勤務条件につき人事委員会または公平委員会の適法な判定を要求しうべきことを職員の権利ないし法的利益として保障する趣旨であると解される。もつとも、委員会の判定の内容は、多くの場合勧告的意見の表明であつて、それ自体としては一種の行政監督的作用を促す効果を持つにすぎないが、勧告的意見にせよ、人事行政の専管機関である委員会が法律の規定に基づき正規の手続で意見を表明した場合には、この意見の表明がない場合に比して職員が法的にも一層有利な地位に置かれることは否定しえないところであつて、前述のとおりかかる効果を伴う意見の発表を要求しうる法的地位を職員に認める以上、この意見の発表を要求しうべき職員の権能は一種の権利ないし法的利益と解するに妨げないから、委員会の判定は職員の権利義務に関する行政処分ということができる。

三そして、地公法四六条にいう勤務条件は一般労働者における労働条件に相当し、また、一般的に労働条件は賃金、労働時間、休日、職場での安全衛生、人事に関する基準等労働者がその労働力を提供するに当つての諸条件をいい、広義には宿舎、福利厚生に関する事項等を含め労働力の提供に関連した労働者の待遇の一切を指すものというべきところ、同条に規定する措置要求の制度が職員に対する労働組合法の適用排除、団体協約締結権・争議権否定等の代償として設けられた趣旨から考えると、同条の勤務条件は右の広義の労働条件と同意義に解すべきである。従つて、本件のごとき教職員用男女別便所・休憩設備等の施設・設備の設置・改善に関する措置要求および判定は、同条にいう勤務条件に関するものということができる。

四従つて、原告が右にいう広義の勤務条件であるとして本件措置要求をなし、これに対してなされた本件判定は行政処分であるということができる。

ところで、抗告訴訟の目的は、当該訴訟の裁判を通じて行政作用の違法を是正し、以て行政の法適合性を保障するとともに、国民の権利を救済することにあることはいうまでもないが、他面、司法裁判所の本来の任務は個別的、具体的事件の審判ということにあるから、抗告訴訟の原告となりうるためには、行政作用が適法に行なわれるべきことにつき一般的関心ないし利害関係があるというだけではたりず、原告において特別な、個別的具体的利益を侵害されたという場合でなければならないと解すべきところ、これを本件についてみるに、本件判定は原告の所属する職場の諸施設・環境の整備改善等職場全体の執務環境に関するものであること明らかであり、必ずしも原告の個別的具体的利益と直接の関連性があるものといえないから、原告が本件判定について、さらにこれを不服として司法裁判所に対し救済を求めることは訴の利益がなく、原告適格を欠くものとして、許されないことというべきである。

五そこで、本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(山田義光 鏑木重明 樋口直)

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